| (72)一人の散歩 |
| 2006年12月5日(火)晴れ 10数年前にMrs.ケイトが小淵沢にやって来た時には既にハチ姫がケイトに君臨していた。甲斐犬で真っ黒くて鋭い牙を持っているハチ姫は本当に恐くて触ることも出来なかったのである。犬小屋の周りを天井まで網で囲ってまるで檻のような中で飼っていたせいもあって当初はお散歩に行くなんて考えられなかったけれどよくよく見るととてもかわいい顔をしていることがわかってきた。それでも檻の外に出すことは出来ずにいたのであるがお互いに少しずつ慣れてきた頃おっかなびっくり檻の外からリードをつけてみた。そのリードをひっぱりながら戸を開けて外に連れ出したのである。すると嬉しくてぐんぐん引っ張って歩き出したのである。これがハチ姫との最初のお散歩であった。それからは毎日毎日いろいろな道を歩くのが楽しくてケイトの近隣では物足りず信玄棒道や町の中心地やありとあらゆる道を制覇していき果ては道のない林や藪の中まで歩いたものだから「ケイトの奥さんは神出鬼没だね。」などと言われてしまったのである。 時には出かけたくない日もあったがハチ姫が楽しみにしていると思うと雨の日も風の日も休むことなくお散歩は続いたのでした。ある時近所の方に「最近ハチ姫ちゃん毛つやが良くなって生き生きしているわね。以前はお義理程度の散歩だったものね。」と言われてしまい大笑い。確かにケイト氏の散歩は出かけたかと思うとすぐに帰ってくるので「どこまで行ったの」と聞くと「家の前を一周して来た」で終りなのでハチ姫もケイト氏とは行きたがらなくなってしまったのである。二人並ぶとまずはMrs.ケイトにしっぽをちぎれんばかりに振ってからケイト氏のほうへちょこっとお愛想を振り撒いてまたMrs.ケイトの方を向いてしまうのでケイト氏は焼きもちを焼いて餌で釣ったり撫でたりするのであるがもうハチ姫のまなざしはMrs.ケイト一点である。 車も病院に行く時しか乗ったことがなかったので嫌いだったけれどMrs.ケイトが抱っこして乗るようになったら車が大好きになってしまい窓を開けると身を乗り出して気持よさそうに風を受けていた姿が今でも目に焼き付いている。山登りも大好きで編み笠山、飯盛り山、入笠山も登ったし冬になるとまるで雪の中を泳ぐように元気に走り回っていたがいつしか老犬になりこの一年はお散歩といっても本当に家の周りを一周するだけとなり最後は階段も下りられなくなってしまった。 そしてハチ姫が旅立った今この何ヶ月かまともに歩いていないことに気が付いたのである。 でも一人で歩くことに慣れていないのでなんだか間が持たないというかつまらない。そこでお友達と早起きして1時間くらい歩こうという話にはなったのであるがもともと早起きが苦手な上にだんだん寒くなってきてしまい結局三日坊主どころか一日で……。しかしここで踏ん張らねばハチ姫に笑われると思い一人で歩いてみると不思議である。思い出の詰まった散歩道にはちゃんとハチ姫がいるのである。さあ。今日もハチ姫に会いに出かけなくては。 |